満足度調査アンケートでよい結果が出ているにも関わらず、顧客に接触する社員が「顧客の満足度が低い」と感じていることがあります。
もし、このような齟齬が生じているならば、NPSを使ったアンケートに切り替えることがおすすめです。
NPSは「あなたは満足していますか」と聞くのではなく、「親しい友人にどの程度すすめたいか」と尋ねる方法。
商品やサービスを大切な人にすすめるとき、より本音に近い満足度がみえてきます。
この記事では、NPSの概要やNPSの計算方法などを解説します。
NPSとはNet Promoter Scoreのこと
NPSの正式名称はNet Promoter Score。日本語に直訳すると「正味の推奨度」となります。正味とは「掛け値なしの」といった意味なので、NPSの開発者の自信のほどがうかがえます。
NPSは2000年初頭にアメリカのコンサルティング会社が開発したといわれています。
NPSが、掛け値なしの満足度を測定できるメカニズムを解説します。
NPSの考え方:本当は満足していない人を排除する
「あなたは今住んでいる家に満足していますか」という質問があったとしましょう。
この問いに対し、大抵の人は、満足と答える可能性があります。
なぜなら、家に不満がある人は「すぐにでも引っ越したい」と考えていて、お金と機会があれば引っ越しを実行しているからです。
ここで問題になるのが、満足の質です。
満足しているかと聞かれた場合、「今すぐ引っ越しするほどの不満はない」という人や、「嫌なところはあるが、いい部分もなくはない」という人、本当は不満だらけなのに、不満と回答すると「ではなぜ引っ越さないのか」と突っ込まれそうなので、「満足と答えておくか」と深読みする人も、満足と答えるかもしれません。
このように「満足している」という回答には、心の底から満足しているわけではない人が多く含まれています。
NPSは、そのような質の低い満足回答を排除する目的で開発されました。
推奨には責任が生まれるので偽満足を排除できる
A「あなたは今住んでいる賃貸マンションに満足していますか」
B「まあまあ満足しているよ」
A「満足度でいうと100点満点で何点ですか」
B「70点くらいだろうか」
A「では、あなたが引っ越しを伴う転勤をすることになったとします。そのときこの賃貸マンションを親しい友人にすすめますか」
B「そこまでよい物件とは思えないのですすめないと思います」
A「70点と高得点なのに、なぜ親しい友人にはすすめないのですか」
B「私は長く住んでいるので愛着が湧いているから満足していますが、初めてここに住む人はいろいろ不都合を感じると思うからです」
このような会話は、日常でみられる会話ですが、この会話でわかることは、親しい友人など、自分にとって大切な人に何かをすすめるときは責任が生じる、ということ。そして、責任が生じた分、評価が慎重になっています。
商品やサービスには必ずよい面と悪い面があります。普通は、悪い面を発見できれば、その商品やサービスは購入しません。しかし、変更するのが面倒だからと長年使い続けていると、悪い面を我慢できるようになります。
そうなると、よい面が強調されるので満足度が高まります。これが「偽満足」になるのです。
しかし、親しい友人にすすめるかどうか検討すると、途端に悪い面を正当に評価するようになります。すすめた結果、親しい友人が購入してそれに不満を抱いたら、責任を感じるからです。
このように、NPSを使って正味の推奨度を計測すると、偽満足を排除することができます。
NPSの計算方法
ここまで、親しい友人を基準として紹介してきましたが、これを家族、同僚、上司などに変えてみましょう。
例えば、コンピュータシステムの満足度を調べたいとき、「上司に、このシステムを社内に導入したほうがよいと進言しますか」といった尋ね方が可能。
NPSは、一般的な満足度調査と同じくらい、幅広い領域で使うことができるものであり、数値化できるメリットがあります。
7、8を中立者と評価する「厳しくみる」
NPSでは推奨度を0~10の11段階設定し、0を「まったく推奨しない」、5を「どちらでもない」、10を「必ず推奨する」とします。
ここまでは、アンケートの回答者に示します。
そしてNPSを集計するときは、次のように評価します。
●0~6:批判者
●7、8:中立者
●9、10:推奨者
回答者には5が中立であると伝えているのに、実際に集計するときは7、8を中立者と認定するところがポイントです。
回答者のなかには、「自分は中立だから6」と答えている人や、「自分は強く推奨したいから8」と答えている人もいるでしょう。それでも6は批判者、8は中立者とカウントされてしまいます。
厳しいと感じるかもしれませんが、推奨することの責任の重さを考えると、やはり9と10のみを推奨者をすべきです。
NPS=推奨者%-批判者%
NPSは、推奨者の割合(%)から批判者の割合(%)を引いた数になります。
例えば以下の結果になったら、NPSは「20」となります。NPSには単位はなく、数字だけで表記します。
●批判者10%
●中立者60%
●推奨者30%
定点観測が必要
NPSは、一喜一憂すべき指標ではありません。NPSでは絶対値よりも相対値のほうが重要です。
例えば、ある企業が、寿司店とイタリア料理店を1店ずつ、計2店経営していたとします。初めてNPSを導入したアンケート調査を行い、寿司店が30、イタリア店が40と出たとします。この結果を受けて、イタリア店のほうが寿司店より、推奨度または満足度が高いとすることはできません。初回ではまだ、辛口評価の客が多いのか、評価が甘い客が多いのかがわからないからです。
一定期間を空けて2回目にNPSアンケートを行ったところ、次のような結果になったとします。
寿司店 | イタリア料理店 | |
2回目 | 40 | 45 |
1回目 | 30 | 40 |
上昇幅(2回目-1回目) | +10 | +5 |
2回目も、寿司店40、イタリア料理店45と、やはりイタリア料理店のほうが上回りました。
しかし2回目のスコアから1回目のスコアを引いた上昇幅は、寿司店は+10、イタリア料理店は+5でした。
寿司店のほうが、NPSを向上させているので、イタリア料理店より顧客の推奨度または満足度を高めたことになります。
NPSを定期的に測定することで、店での取り組みが満足度につながっているかどうかがわかります。
NPSを使うメリットと注意点
NPSをアンケートに使うデメリットはあまりありません。したがって、もし、顧客の満足度を正確に測定できていないと感じたら、積極的にNPSを使ってみるといいでしょう。
ここでは、NPSを使うメリットと、使うときの注意点を紹介します。
「1つでも上を目指そう」と従業員を鼓舞でき、反省もできる
NPSを定期的に測定すると、企業や店舗、商品、サービスの通信簿になります。
例えば、あるアンケートでNPSが30と出たら、次のアンケートで32を目指すことができます。2つ増やす目標ができれば、従業員のなかで「何を改善すれば2つ上がるのか」といった話し合いを持つことができるでしょう。
また経営者は、例えば35に到達したら臨時ボーナスを支給する、といったように従業員を鼓舞することができます。
そして、NPSが前回アンケートより下がれば、すぐに反省点を探すことができます。数字の低下という形で如実に満足度が下がっていることが判明しているので、反省点がないはずがないからです。
同じアンケートで、NPSで低い点をつけた人に「なぜ親しい友人にすすめないのか」と尋ねれば、改善点がみつけやすくなります。
以上がNPSを導入するメリットです。
注意点:自分の手柄にしない、人のせいにしない
NPSを導入するときに注意したいのが、スコアが上昇したときに自分の手柄にすることやスコアが低下したときに人のせいにしないこと。
例えば、経営者が商品の値下げに踏み切ったところNPSが上がったとき、経営者は「会社の利益を削ったのだからNPS上昇は当たり前」と考えることは危険です。
もし経営者がそのようなことを従業員に言ってしまったら、接客などのサービス向上に力を入れてきた従業員はやる気を失うでしょう。
また、商品の値上げをしてNPSが低下したら、従業員は「社長が値上げをするからNPSが下がった」と思うかもしれません。しかし、従業員にそのようなマインドを抱かせてはいけません。
経営者が、コストをかけて商品のクオリティを上げて値上げをしたのであれば、その値段は適正価格のはずです。したがって、従業員は、商品が高級になった分、接客のクオリティも上げなければなりません。
経営者は値段が上がってもNPSを高める方法を、従業員と一緒に考えていくべきです。
まとめ~出さない本音を引き出す
NPSでは、「あなたは満足していますか」と聞かず、あえて「あなたの友人、または家族、または同僚に推奨しますか」と尋ねます。
人には多かれ少なかれ「自分はよいと思うのだけれど、他人はどう思うだろうか」という気持ちがあります。
「自分事」の問題では本音を隠すのに、「他人事」の問題になると本音で語れるようになります。NPSはこの心理を利用して本音を引き出していきます。
<参考>