Voice of Customer(以下、VOC)とは顧客の声のこと。顧客の意向をキャッチしたいマーケターにとって、VOCはかなり重要な情報です。
しかし、VOCを客観的に分析している企業やマーケターはそれほど多くなく、「アンケートで高い評価が得られた」「カスタマーセンターに寄せられる苦情が増えた」といった程度の理解で済ませていることもあります。
また、顧客は自分の感想をさまざまなツールを使い、さまざまな場所で発信するので、マーケターもさまざまな角度からVOCを集めていかなければなりません。
「タナカさん」ではマイクロサーベイ・アンケート・ユーザーヒアリングと3つの手法でのVOC収集を効率的に行う事ができますが、VOCをどのように集めて、どのように分析し、どのように活用したらよいのか解説します。
VOCは「どう集めるか」
VOC調査で集め方が重要になるのは、マーケターや経営者は得てして、よい声を歓迎してしまい、悪い声に直感的に反発してしまうものだからです。
つまり、適当にVOCを集めてしまうと、顧客の高評価を「正しい評価」と判定して、顧客の厳しい声を「誤解している」と認定してしまいます。これではVOC調査をする意味がありません。
VOCは、客観的に、かつ大量に集めなければなりません。
有効な収集方法は次のとおりです。
- アンケート(Webアンケート含む)
- SNS
- カスタマーセンター
- メールでの問い合わせ
- 掲示板
これらの収集方法を使えば、比較的簡単に多くのVOCを集めることができます。VOCを多く集めることができれば、VOCの多さがエビデンス(科学的根拠)になるため、信頼してもらうことができます。
そして「これが顧客の声である」という結論にエビデンスがあれば、自信を持ってマーケティング戦略を描くことができ、実施するキャンペーンの確度も上がるはずです。
上記の方法では、
- 商品を使った感想
- 店員の接客
- コスパや値ごろ感
- 企業イメージやブランド力
- 長所と欠点
- 利用シーン
- 根拠のない噂
など、さまざまなVOCを得ることができるでしょう。
これらは使える情報ですが、VOCをただ闇雲に集めてしまうと、分析をするときに収拾がつかなくなります。
そのためVOC調査では、大量に集めたあとの分類や分析が重要となるのです。
VOCの分類・分析方法
顧客は企業の商品やサービスについて正しい情報を持たないまま、褒めたりけなしたり推測したり断定したりするため、顧客の声というものは、いい意味でも悪い意味でも「いい加減」で「自分勝手」です。
それらの声はマーケターや企業が気がつけないことであり、だからこそマーケティングの重要資料になるともいえますが、その一方で、適切に分析しなければ声に振り回され、マーケティングに方向感がなくなってしまいます。
VOCの分類方法と分析方法を解説していきます。
経営課題と顧客との接点にわける
VOC分析のコツは、すべての声を一気に分析しようとしないこと、です。
先ほど、VOC調査には多くの声を集める必要があると紹介したので、それと矛盾するように感じるかもしれませんが、そうではありません。
VOCにはさまざまな種類があり、調査目的を定めたら、それに関連する声だけをピックアップする必要があります。ピックアップとは選別することなので、当然ながらその声の個数は、全体の声の個数より減ります。だからこそ、母数になる全体の声をたくさん集めなければならないわけです。
集めたVOCは、「経営課題に関するもの」と「顧客との接点に関するもの」の2つにわけてみましょう。
この2つにわけることで、経営課題に関するVOCを分析しているときに、顧客の接点に関する「雑音」を聞かなくて済みます。VOCには、根拠のない攻撃的な非難や噂も含まれるので、それらの雑音に振り回されないようにしなければなりません。
VOCを「経営課題に関するもの」と「顧客との接点に関するもの」にわけたら、さらに細分化していきます。
経営課題に関するVOCをさらに細分化する
経営課題に関するVOCはさらに次のようにわけることができます。
- 商品開発、商品改善に関わるもの
- 広告やマーケティング・キャンペーンに関わるもの
- 企業イメージやブランドに関わるもの
- 商品やサービスの最適化に関わるもの
例えば、VOC全体のなかから、経営課題に関するVOCをピックアップして、さらに商品開発に関わるVOCをピックアップして分析する、といった過程を踏みます。
顧客との接点に関するVOCをさらに細分化する
顧客との接点に関するVOCには次のようなものがあります。
- 販売に関するもの
- 接客に関するもの
- 商品やサービスの使用感に関わるもの
- 褒め言葉とクレーム
- 提案
褒め言葉とクレームは、一緒に集めたほうがよいでしょう。
そうすることで、褒め言葉の数とクレームの数を比較することができます。また、例えば「褒め言葉に使われている文字数が少ない割に、クレームの文字数が多い」ということがわかれば、顧客の不満や怒りが強いと推測することができます。
AIのテキストマイニングを使えば一気に傾向を分析できる
VOCをここまで分類すれば、あとはスタッフ全員で声を読んでいき、そこから傾向をまとめて知見を回収します。
声がデータ化(テキスト化)できているのであれば、AI(人工知能)のテキストマイニング(文章分析)という技術を使って一気に傾向を分析することが可能です。
VOCの活用事例
さまざまな企業がさまざまな形でVOC調査を利用しています。
企業のVOCの活用事例を紹介します。
無印良品:ネットコミュニティで新商品のアイデアを探る
無印良品を運営する株式会社良品計画は、VOCの活用が上手な企業の1つです。
良品計画は、顧客のリクエストを集めるインターネット上のコミュニティ「IDEA PARK」を開設していますが、ここには年間数千件の意見が寄せられ、そこから年100件ほどの新商品が生まれています。
例えば、顧客からマンスリーノートの差し込み口の幅が短いという指摘を受けたことで、A6のマンスリーノートの差し込み口の幅を40mmから50mmに広げました。
また、顧客の要望で、廃盤になっていたシリコン製の製氷皿を再び売り始めました。なぜ、廃盤になった製氷皿のニーズが高まったのか調べたところ、アクセサリーの樹脂を固めるのに使っていることがわかり、ここから、樹脂を使ったアクセサリーづくりが流行していることを知ることができたのです。
VOCはマーケティングのヒントの宝庫といえます。
「IDEA PARK」が優れているのは、双方向のコミュニケーションツールであることです。
顧客から「こんな商品がほしい」と要望されたものの、すでに似た商品があれば「このような商品があります」とリコメンドすることができます(*1)。
*1:https://seleck.cc/867
JCB:明細書にネット店舗名も記載することにした
クレジット会社のJCBは、コールセンターへの問い合わせのなかに、「買った覚えがない店舗名が明細書に掲載されている」という声が多いことを発見しました。それを分析したところ、購入先の店舗名と屋号が違うことで、顧客が混乱していることがわかりました。
海外の通販サイトでは、ネット店舗の店舗名と運営会社の屋号が異なることが珍しくありません。顧客は、店舗名しか覚えていないことが多いので、明細書に屋号しか載っていないと混乱します。そこでJCBは、明細書に屋号だけでなく店舗名も載せることにしました(*2)。
このような細かい改善は、売上高に直結するわけではありませんが、顧客に「離脱の口実」を与えない効果があり、顧客のつなぎ止めにとても有効です。
顧客は、1つのサービスや1つの商品を長く使い続けていると「面倒だからこのまま使い続けたい」という気持ちと「そろそろ新しいものを使いたい」という気持ちの両方が芽生えてきます。そのとき、ちょっとした不便さが見つかると「そろそろ新しいものを使いたい」という気持ちが急に強まって、離脱を招いてしまうのです。
*2:https://www.frontgate.jp/1040
まとめ~必要な声を大量に聞き客観的に分析する
VOC調査では、必要な声を大量に聞くことが重要です。そうすることでしか、マーケティングに必要なデータは得られないでしょう。
いい意見があったら、それは本当かと疑わなければなりません。悪い意見があったら、他にも同じことを言っている人はいないかと調査の網を広げなければなりません。
そのためには、常にVOCを集めて次々VOCを分類して分析していかなければなりません。
「顧客の声に真摯に耳を傾ける」とは、VOCを客観的に分析することに他なりません。
<参考>